念入りに化粧を直す彼女に幻滅 [フレックス社員、危機一髪]
妄想をかきたてられる職業ナンバー1♥ と言えば? フライトアテンダント? ナース? 社長秘書?
私的には、「元」がつく方がそそる(例:「元カノ」「元妻」など)。何か過去がある女がいいのだ。また、「美人」もキーワードである。但し、「元美人看護婦(今は「婦」って言っちゃいけないらしいですが…)」「元美人秘書」などとつなげて書くと、もう美人じゃないみたいでよろしくない。
うちの会社にはいるのだ、そういう職業にかつて従事していた方が。不動の人気を誇る職を経験した美人が。それも、きわめて近くの部署にである。楽しみにしない私ではない。綺麗な同性を観賞するのは大好きだ。この会社で数少ない男性は、あんまり見たくれがよくない(どちらかというとヘンな)人たちなので、その点で期待はしていない。この荒野で目を慰めてくれそうなのは、美しい女だけである。
輝かしい経歴を持つその美人の席は、私のデスクと背中合わせに存在した。気づいたとき、こんなに近くにいるなんてと、ちょっとした感動を覚えたものである。廊下で時々すれ違うくらいのことでも、心は「ラッキー♪」と歌い上げた。だが、そんなささやかな楽しみさえも、奪われる日がやってこようとは。
席替えである。年末、部署の上司が「PC入力がメインの人を、一角に集めたい。木谷さんも入力メインだから、あっちに移ってほしい」と言い出した。これまでは部屋の中央の席だったのに、指差されたあっちとは、壁際地方。彼女の席からは遥かに遠ざかる、辺境の地であった。
その上、入力隊ゾーンには、我が部署唯二の男性が混じっている。彼らには、若さがない。かといって渋い魅力があるわけでもない、ちょっと半端な感じの男性二人組は、申し訳ないが美しいとは言いがたく……。
若くて美しいお姉さんとVS若くなくて美しくないおじさん。選ぶほどのこともない。私は勿論、席をかえないで下さぁいと、めずらしく自己を主張して、あくまでも元の席に居残ろうとした。しかし、願いむなしく、左遷されることに決まってしまったのである。あいるびーばっく。
上司が判断しただけのことはあった。引っ越し先は、なるほど仕事自体は進みやすい環境にあった。近隣の席の方々も、一応「新入り」である私によく声をかけ、何かと気遣ってくれる。嬉しく思いながらも、私がかたくなさを捨てられずにいるのは、視界に潤いがないからだ。綺麗な花が見たい。目が女を求めていた。
久しぶりに、元背中合わせの彼女と会った。相変わらず美しかった。そのままの姿を勝手にカメラで15秒映しただけで、化粧品のCMが一本できてしまいそう。そろったまつげがびっしり、大きな瞳がぱっちり。美人はまばたき一つで人の目をひきつけることができるのだ。そして、唇が描く魅惑のカーブ……。
そんな完璧な表情を、鏡に向かってくりだす彼女がいた。私は一瞬「!?」と立ち止まってしまった。何か異質なものでも見たような気がした。
場所はトイレだ。そんなところで、モデルよろしく キメ★ の表情を作っている彼女と遭遇してしまったのである。
何かと思ったら、メイクのノリをチェックしているのだった。ハンドモデルもできそうな細い手、しなやかな指が、コンパクトや口紅をもてあそんでいた。どこも化粧崩れは起きていない、つけたての新鮮そのもののようだが、本人は満足していない様子。魔法のコンパクトから、再び化粧パフをとりあげるのが見えた。きりりとはりつめた弓の(byもののけ姫)ように描かれた眉が、真剣にひそめられていた。
女たるもの、このくらいでなければ駄目かなと、反省の念がわいた。いつでもどこでも、女であることを忘れてはならないのかもしれない。私と来たら、新年始まりの週を、ずっとすっぴん出社で通してしまったのだ。わーい。客商売でもなく、事務で部屋にこもりきりなので、顔なんか誰も見ていないと信じ切ってのことだが、いかがなものだろう。
しかしながら、勤務中、化粧直しに時間をかけるのもまた、いかがなものだろう。私が用をすませて出てきても、彼女はまだメイクに夢中。鏡の前で格闘を続けていた。完璧メイクは、近くで見ると結構濃くて、素肌感が全然感じられなかった。舞台メイクじゃあるまいし君、日常生活で一体何をやっているのだ?
もはや、憧れの気持ちはなくなっていた。
こうしてまた、一つの恋が風と共に去りぬ。
この手の幻滅は、彼女に限ったことではない。トイレで念入りに化粧を直している女を見ると、どれだけ綺麗に化粧がのったとしてももう駄目だ。萎えてしまう。金と技術が伴えば、美は製造できることくらい、同性なら分かっている。それでも、舞台裏は見せないでほしい。見せてしまったら最後、夢の女でいられなくなってしまうのだから。
夢を壊されるのは悲しい限りだが、客観的に見た場合には、女子トイレは面白い空間ではあるのだ。楽屋を覗けるとでもいうのだろうか。人が顔を作っているシーンを目撃できるのは、やっぱりおもしろおかしくて、時として涙ぐましくて、いくらか悲劇的な喜劇である。
高いメーカーの化粧品を使おうが、春の新色をお披露目しようが、廊下で一瞬すれ違うだけの相手が、他人のメイクをまじまじと見れるわけがない。だから、お化粧自体はそこまで重要ではないのかもしれない。が、メイクが終わった時、「武装完了」の表情をする彼女たち。メイクで武装したことにより、自信をまとって外の世界に出ていく。
その瞬間に立ち会えるのが、暇なときは結構観察のしがいがあるなと思う。暇じゃないと、やっぱり「何やってんだろこの人たち」と思うわけですが……。
kotaniriko
2005-01-12 23:23:17 | Permalink | コメント(0) |
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